私をみつけて離さないで
13.門出
そして、大学3年の終わり、周囲もいよいよ就職活動はどうしようかと思い始めたころ、私は保留にしていた結論を出す。
丸2年、ちゃんと考えて出した結論だ。
「少し早いけど、希望する卒業後の進路を伝えてもいい?」
真さんは笑顔でうん、と答えた。私の気持ちなどお見通しだからだろう。
それでも私は言葉できちんと伝えた、やっぱり私は真さんといたい、真さんと死ぬまで添い遂げたいという意思を。
「ありがとう、すごく嬉しい」
わかっていただろうに、そういわれれば私だって嬉しい。
「それじゃ、僕の秘密を明かさないとね」
そういって教えてくれた、ご両親のこと、自分が持つ不思議な力のこと──その力の使い方をきちんと子々孫々にも伝えなくてはいけないという意味がよく判った、誤れば人類は滅ぶレベルだと思えた。
「怖くない?」
真さんは不安そうに聞く、返事を保留したくらいだ、恐れられるのが一番怖かったんだろう。
「大丈夫、真さんが誰よりも強いって判って、誇らしいくらい」
笑顔でいうと、真さんも安心したように微笑む。
「やっぱり僕が選んだ人だ」
そっと抱きしめてくれる、しみ込んでくる温かさが心地よかった。
私にも判った、あなたが私を選んでくれた理由が。
真さんは優しくて強いけれど、とても脆い人だ。だから私が守らなくては、この人が壊れないように。
あなたが選んでくれたんだもの、それが私の自信だ。
ずっと守るね、あなたのことも、あなたの秘密も。
☆
私が大学を卒業したら、結婚式を挙げることが決まった。
場所はもちろん東山にある岩崎所有の結婚式場、真さんのご両親が模擬挙式を上げたその場所だ。
招待客は、ほとんどが岩崎家の関係者で200人超え……。さすがにその人数が入る会場がないと、披露宴を二回することになった、びっくりなんだけど、いやはや恐ろしい。式自体は身内だけで午前中の早いうちに行い、そのあと午前と午後に分けて披露宴をすることになった。
そんな豪華な式になることは先んじて実家にも知らせた。そして行われた両家の顔合わせになる結納では、姉が終始仏頂面だったのがなんだかなあと思う。母がいうには結婚を先にされたのが許せないらしい。許せないのは結婚そのものではなく、ハイスペックすぎる真さんに見染められたのが私だからだろうと思う。
いつも自分のほうが上だと思っていた姉を出し抜いてやった、そう思えば少しは自分に自信が持てた。
☆
それから1年かけて結婚式の準備をする、ううん、主にしたのは周りだ。私は意見を聞かれるだけ。
乗り気なのはおばあさまだ。自身は披露宴もなく、小さな教会で近所の人だけで結婚式を挙げたそうだ。そして息子である真さんのお父さんの時には張り切っていたのに、やはりひっそりと──それは真さんがお腹にいたからだ──お色直しもしなかったのが心残りだったとかで、今回は絶対するんだからねと念を押された、もうはいお願いします、というしかない。
そしてそのすべてを取り仕切るのは相原さんだった。真さんのお父さんの時も相当張り切っていたらしい、なんたって高校生の学生結婚だったんだ、とやかく言う周囲を黙らせて挙式したんだとおばあさまが教えてくれた。
そんな相原さんとおばあさまのタッグは、向かうところ敵なしだと思えた。
「ドレス、仕立てよう」
そう提案された、あの創業時のポスターのお母さんが着ているものと同じものを作ろうという。
いや、同じデザインなんて、比較しやすくて恥ずかしいんですけど。
それでも私の意見も入れてくれるというからお願いしたところ、横浜の仕立て屋まで連れていかれた。ウェディングドレスの製作が本業ではないから、年に多くて1着だけれど、あのホテルオリジナルのドレスを作っている仕立て屋さんだそうだ。
当然、お母さんが着たあのドレスもこの方の製作だった。私の結婚を聞いてとても喜んでくれる。
「それはおめでとうございます、より一層手をかけて作らせていただきますね」
店主のテイラー、藤宮さんの優しい笑みに吸い込まれそうだった。
そして迎えた当日は、お母さんの誕生日だという4月25日。
やたらカメラが多いと思った、真さんもおかしいなと言っていた。
案の定、広告用の動画とスチールの撮影をしていたらしい。
「身内で宣伝しないでください! 社長が出るっておかしいでしょ!」
真さんが相原さんに文句を言う、そうすべては相原さんの差し金だ。
「いつぞやにも聞いたセリフだなあ」
相原さんは笑う、まさにデジャブを感じているのかも。
そうだよ、宣伝になんて──真さんのご両親ならまだしも、そして真さんだけならまだしも、私は中の下だよ、本当、無理だから。
「社長が出まくりの会社だってあるって。なにより、綺麗な花嫁だもん、自慢しようよ」
例の華麗なるウィンクとともに言われた、いや、私は下の下だから……。
なのに、結局真さんは押し切られたらしい。
動画はテレビやネットでの広告に半年ほど流れていた。
写真は、チラシやポスターになる。
ポスターは数年の間だけれど、創業時のポスターと並んで貼られてしまう……恥ずかしいけれど、我ながら確かに美人に撮ってもらった、から、ちょっと嬉しかったりもする。もちろん真さんのお母さんと比べたら、はるかに見劣りするけれど。
ポスターは真さんと写るものだ、それを見るたび、この人に選んでもらったのだと確認出来て誇らしい気持ちになる。
この写真、そのままに。
これからもずっと、この人のそばで、微笑んでいたい。
end(2021/12/22)
丸2年、ちゃんと考えて出した結論だ。
「少し早いけど、希望する卒業後の進路を伝えてもいい?」
真さんは笑顔でうん、と答えた。私の気持ちなどお見通しだからだろう。
それでも私は言葉できちんと伝えた、やっぱり私は真さんといたい、真さんと死ぬまで添い遂げたいという意思を。
「ありがとう、すごく嬉しい」
わかっていただろうに、そういわれれば私だって嬉しい。
「それじゃ、僕の秘密を明かさないとね」
そういって教えてくれた、ご両親のこと、自分が持つ不思議な力のこと──その力の使い方をきちんと子々孫々にも伝えなくてはいけないという意味がよく判った、誤れば人類は滅ぶレベルだと思えた。
「怖くない?」
真さんは不安そうに聞く、返事を保留したくらいだ、恐れられるのが一番怖かったんだろう。
「大丈夫、真さんが誰よりも強いって判って、誇らしいくらい」
笑顔でいうと、真さんも安心したように微笑む。
「やっぱり僕が選んだ人だ」
そっと抱きしめてくれる、しみ込んでくる温かさが心地よかった。
私にも判った、あなたが私を選んでくれた理由が。
真さんは優しくて強いけれど、とても脆い人だ。だから私が守らなくては、この人が壊れないように。
あなたが選んでくれたんだもの、それが私の自信だ。
ずっと守るね、あなたのことも、あなたの秘密も。
☆
私が大学を卒業したら、結婚式を挙げることが決まった。
場所はもちろん東山にある岩崎所有の結婚式場、真さんのご両親が模擬挙式を上げたその場所だ。
招待客は、ほとんどが岩崎家の関係者で200人超え……。さすがにその人数が入る会場がないと、披露宴を二回することになった、びっくりなんだけど、いやはや恐ろしい。式自体は身内だけで午前中の早いうちに行い、そのあと午前と午後に分けて披露宴をすることになった。
そんな豪華な式になることは先んじて実家にも知らせた。そして行われた両家の顔合わせになる結納では、姉が終始仏頂面だったのがなんだかなあと思う。母がいうには結婚を先にされたのが許せないらしい。許せないのは結婚そのものではなく、ハイスペックすぎる真さんに見染められたのが私だからだろうと思う。
いつも自分のほうが上だと思っていた姉を出し抜いてやった、そう思えば少しは自分に自信が持てた。
☆
それから1年かけて結婚式の準備をする、ううん、主にしたのは周りだ。私は意見を聞かれるだけ。
乗り気なのはおばあさまだ。自身は披露宴もなく、小さな教会で近所の人だけで結婚式を挙げたそうだ。そして息子である真さんのお父さんの時には張り切っていたのに、やはりひっそりと──それは真さんがお腹にいたからだ──お色直しもしなかったのが心残りだったとかで、今回は絶対するんだからねと念を押された、もうはいお願いします、というしかない。
そしてそのすべてを取り仕切るのは相原さんだった。真さんのお父さんの時も相当張り切っていたらしい、なんたって高校生の学生結婚だったんだ、とやかく言う周囲を黙らせて挙式したんだとおばあさまが教えてくれた。
そんな相原さんとおばあさまのタッグは、向かうところ敵なしだと思えた。
「ドレス、仕立てよう」
そう提案された、あの創業時のポスターのお母さんが着ているものと同じものを作ろうという。
いや、同じデザインなんて、比較しやすくて恥ずかしいんですけど。
それでも私の意見も入れてくれるというからお願いしたところ、横浜の仕立て屋まで連れていかれた。ウェディングドレスの製作が本業ではないから、年に多くて1着だけれど、あのホテルオリジナルのドレスを作っている仕立て屋さんだそうだ。
当然、お母さんが着たあのドレスもこの方の製作だった。私の結婚を聞いてとても喜んでくれる。
「それはおめでとうございます、より一層手をかけて作らせていただきますね」
店主のテイラー、藤宮さんの優しい笑みに吸い込まれそうだった。
そして迎えた当日は、お母さんの誕生日だという4月25日。
やたらカメラが多いと思った、真さんもおかしいなと言っていた。
案の定、広告用の動画とスチールの撮影をしていたらしい。
「身内で宣伝しないでください! 社長が出るっておかしいでしょ!」
真さんが相原さんに文句を言う、そうすべては相原さんの差し金だ。
「いつぞやにも聞いたセリフだなあ」
相原さんは笑う、まさにデジャブを感じているのかも。
そうだよ、宣伝になんて──真さんのご両親ならまだしも、そして真さんだけならまだしも、私は中の下だよ、本当、無理だから。
「社長が出まくりの会社だってあるって。なにより、綺麗な花嫁だもん、自慢しようよ」
例の華麗なるウィンクとともに言われた、いや、私は下の下だから……。
なのに、結局真さんは押し切られたらしい。
動画はテレビやネットでの広告に半年ほど流れていた。
写真は、チラシやポスターになる。
ポスターは数年の間だけれど、創業時のポスターと並んで貼られてしまう……恥ずかしいけれど、我ながら確かに美人に撮ってもらった、から、ちょっと嬉しかったりもする。もちろん真さんのお母さんと比べたら、はるかに見劣りするけれど。
ポスターは真さんと写るものだ、それを見るたび、この人に選んでもらったのだと確認出来て誇らしい気持ちになる。
この写真、そのままに。
これからもずっと、この人のそばで、微笑んでいたい。
end(2021/12/22)