私をみつけて離さないで
3.初めてのデート
寮の名前を聞かれ、時間を指定された。
その5分前に岩崎先輩はバイクで颯爽と現れる。
ズボンにしてね、と言われたのが判った、バイクででかけるからか。バイクに詳しくはないけれど、ZZR14と書いてある……1400ccということだよね……大きいな、タイヤ太。
先輩は挨拶をしながらシートに座ったままスタンドを立てて、革製のグローブを外す。
「はい」
後部座席にネットで留めていたヘルメットを渡してくれる、顎までは覆われていないジェットタイプと呼ばれるものだ。
「祖母ので悪いけど」
「え、おばあさま、バイク乗るんですか?」
何歳かわからないけれど、それって、ちょっとかっこいい!
「うん、昔はこんな型のをガンガン乗り回してたみたいけど、今はハーレーダビッドソンでゆったり楽しんでるよ」
先輩はオイルタンクを撫でて微笑んだ、といっても先輩は口を覆うタイプのヘルメットだ、口元は見えないのが残念。
ヘルメットを被ろうとした時、周りがざわついているのが判った、上から落ちてくる声が僅かに聞こえる。岩崎さんじゃない?とか、あの子なんなの?とか、そんな言葉だ。
違う、違う! 嫌がる先輩に私が迫って無理矢理誘ったとかじゃないのよ!
思わずヘルメットを被る手が止まった、と目の前に先輩の顔が。きょとんとした顔で私を覗き込んでいる。
どうしよう、やっぱやめますっていおうかな、と思ったのに、先輩の手がぽんっと頭頂部を叩き、ヘルメットはすぽっと頭部に収まった、う、断るタイミングを逸した。
「きつくない?」
「……へーき、です」
更には顎に指を当てられ僅かに上を向かされる。ドクンと跳ね上がる心臓に気を取られている間に、顎の留め具をはめられた。
「あの……子供じゃないんで」
それくらいできると訴えた、だって、先輩のあったかい指が、肌に……!
「ごめんごめん、でもこれくらいしっかり留めないと、事故の時にメットだけ飛んでいったら意味がないからね」
「先輩が事故るなんて思えませんけど」
「判らないよー? はい、これも怪我防止にね」
そういって革製のジャケットのポケットから出したグローブをくれる、ああ、先輩のぬくもりが……気分は織田信長。
「じゃあ、ここに足かけて」
後輪の軸の脇についている爪を出してくれる、タンデムステップっていうんだって。そこに足をかけて後部座席に跨った。
「身軽でいいね、じゃ、しっかり掴まって」
「え、どこに……」
シートにベルトがある、そこだろうか。後ろにバーもあるな、どっちに……。
「ここ」
先輩はそういって私の手を掴み、自らの腰に当てた、思わず「ひえっ」と声が出てしまったけど、先輩に聞こえていないことを祈る。
「車体でもいいけど、掴まっててくれてた方がこっちも感覚が判りやすい」
「そ、そうなんですね……」
触れていた方がいいのか、とはいえ腰をがしっと掴む気にはなれずジャケットの裾を掴み……っていうか、先輩腰細!
「じゃあ、動くよ」
先輩は優しく言ってスタンドを上げるとゆっくりとバイクを走らせる。