佐藤さん家のふたりとわたしと。
その日の夜はカレーだった。

いっぱい食べて満足げにリビングでうだうだしていると奏志がどこからか持って来たでっかい双眼鏡を抱えて現れた。

「芽衣、庭で星の観察しようぜ!とーちゃんが昔使ってた双眼鏡貸してくれたんだ!」

「星の観察…?」

「俺も行く!」

おもしろそうと思って立ち上がる。

「は?お前は来なくていいよ!」

「なんでだよっ、いいじゃねぇか別に!」

「お前には言ってなっ」

「大志も行こう、ね!ね!?」

俺たちの言い争いを定番のように止めるのは芽衣の役目。

でも今のは少し違って、それに奏志が仕方なしに答えた感じだった。 

「…いーけど」

コートを羽織って、マフラーを巻いて、ホッカイロを持って、寒くないよう万全の対策で庭に出た。

澄んだ空気に雲一つない空、よく見えそうだった。

奏志が双眼鏡を組み立てるのを隣で見てる。

「よし、たぶんこれでおっけ!」

「見して見して!」

「なんで何もしてないお前から見るんだよ!俺からだっつの!」

覗き込もうとした俺の胸を押して、奏志が双眼鏡を覗いた。

「あー!見えた見えた!」

「私も見たい!」

次に芽衣が双眼鏡を覗くのにしゃがんだ。

「わ~、すごいー!いっぱい見える!…でも何座なのか全然わかんない」

「「冬の大三角は??」」

「えー、冬の大三角?ってどれ?」

「んー、冬の大三角は…」

奏志が芽衣に近づいた。

隣で一緒に双眼鏡を覗こうと顔を近付けた。

暗くて、芽衣がどんな顔をしてたのかはわからなかったけど不自然に離れたのだけわかった。

サッと、まるで避けるみたいに。

「あ、えっと…あのー」

「………。」

その不自然さに奏志も芽衣の方を見た。

「…、寒いね!なんかあったかい飲み物もらってこうようかな!」

そのまま走って家の中へ入って行った。
この場から逃げるように。
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