佐藤さん家のふたりとわたしと。
1人の帰り道、長くて遠い、全然楽しくない学校の帰り。

実際は何の用事もなくて、ただ家まで歩くだけ。いつもは2人の真ん中であっという間に帰路に着くのに、1人の帰り道は寒くて虚しい。

やっと着いた家の前、ちょうど帰って来た結華お姉ちゃんに会った。お姉ちゃんも帰って来たところみたいで家の中に入る所だった。

「芽衣、おかえり!」

相変わらず派手な格好をしているお姉ちゃん、アニマル柄のモコモコなコートがあったかそうだった。

「結華お姉ちゃん!…ただいま」

「…1人なの?」

「うん…」

もうしばらく大志と奏志といないことを結華お姉ちゃんだってもちろん知っている。私が佐藤さん家に遊びに行かなくなったから。大志も奏志も、うちには来てないし。

「あんた今暇?」

「え、暇だけど…」

「じゃあちょっといらっしゃいよ。新しいネイル買ったの、やったげる!」

言われるがまま結華お姉ちゃんのあとをついて佐藤さん家にお邪魔した。

子供のころからずっと来てた、なのになぜか懐かしく思えた。ほんの少し来てないだけなのにそんな風に思うなんて。

「はい、ここに座って!まず右手からね!」

紫色のビーズクッションを用意され、そこに三角座りで座る。スクールバッグを隣に置いて、制服のまま言われたように右手を出した。

結華お姉ちゃんが可愛いラメラメのメイクボックスからマニキュアを取り出した。
つい見入ってしまうピンクゴールドに輝く指先が流れるようにゆっくりと私の爪に塗り始める。

「結華お姉ちゃんのネイル可愛いね」

「キラキラでいいでしょ、あんたのも可愛くしてあげるわよ」

「やった」

すーっとなめらかに滑っていく。それをじーっと見つめてた。

「…双子と何があったの?」

「え?」

思わず結華お姉ちゃんの顔を見た。

少しだけ笑ってた、困ったように。 

「まぁ…だいたいわかるけどね。何年あんたたちのお姉ちゃんやってると思ってるの」

結華お姉ちゃんが丁寧に丁寧に私の爪を彩っていく。

少しひんやりする冬のマニキュア。

不思議、お姉ちゃんは。

お姉ちゃんなら話せると思ったんだ。





大志と奏志にはずっと言えなかった私の秘密。
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