佐藤さん家のふたりとわたしと。
「本当は好きなんじゃないの?」

もう1度私と視線を交わす。

その瞳が優しくて、しなやかで、凛として…

腹が立って持っていたクッションを思いっきり投げつけてしまった。

「いったっ!!」

めちゃくちゃ至近距離、ノーコンな私でも見事に大志の顔にクリーンヒットしちゃうほど。

体制を崩した大志が後ろに手をついた。

「ちょっ、何すん…っ」

その前で立ち膝の状態で、上から大志を見下ろした。

「違う!」

鼻の奥がつーんとする。
今にも涙がこぼれてしましそなぐらい瞳が濡れている。

だって全然いらなかった、そんなフォローいらなかった。

「えっ、ちょっと!?泣いて…っ」

「気を遣ってとかそんなんじゃない!てゆーか気なんて遣ったことないし!」

「おぉっ、まぁ確かに…!」

心臓の音が邪魔をして呼吸が荒くなる。うまく息が出来ないくて苦しい。

「決めつけないでよ!私の気持ち!」

はぁーはぁーと肩で大きく息をした。

「私の好きな人は奏志じゃない!」

なんでか涙が溢れた。

どんどん、どんどん、こみ上げてくる涙。

止まらない、まるで気持ちが溢れてくるみたいだった。

「ずっとずっとずっと…っ、大志のことが好きだったんだもん…!」

はぁはぁっと乱れた息で必死に呼吸をする。

「…え?えーーーーーーー!?」

「なんで奏志にはわかったのに大志にはわかんないのー!?」

「そんなん言われなきゃわかんねぇーよ!」

「わかれよーーーー!!双子のくせにっ!!!」

誰かに好きって言うのってこんな感じなの?

もっとロマンチックなものなんだって思ってたのに!実際は勢いとただただ感情を吐きだしただけって感じ!

こんなにぐちゃぐちゃになりながら言うことになるなんて…!

「だって…っ、奏志が告白したのはわかってたけど、悩んでる芽衣見てたら本当は奏志のことが好きだけど今の関係がどうかなっちゃうから答えられないのかってだんだん思えてきてやっぱ壊したのは俺なのかなって…っ」

吐き出された感情は無限ループのように湧いて出る。

ぽたぽたと零れる涙を両手で何度も拭った。

ずっと立ち膝状態だった腰をそのままぺたんと下ろした。

「…それ本当に?」

それでも合点がいかない様子の大志が身を乗り出すように私に近付いた。

「本当だってば」

「本当なんだ…」

「本当っ!ずっと好…っ」

俯いてたから、初めて大志の顔を見た。

無限ループの涙を拭うことに気を取られ過ぎていたから見れてなかった。

「顔、赤っ!」

耳まで赤くててびっくりしちゃった。

私も人のこと言えないぐらいひどい顔してるけど。

「そんなん急に言われたら…っ、照れるじゃんかっ」

「…急じゃないもん、ずっと思ってたし」

ふと下を向いたら涙のせいで袖がびしょびしょだった。

「…芽衣」

名前を呼ばれてもう1度顔を見た。

「俺もずっと好きだったよ」

やばいっ、顔が熱くてやばい。

体温急上昇、今なら体温計も新記録出せちゃうんじゃないかって。

「うん…」

「「…………。」」

「…うんって、もっと他にあるだろ」

「わ、私も好きだよ」

「さっき聞いたよそれ」

あれこのあとは?どーすんの?

何したらいいか全然わからないけど…

「うれしい…」

また涙が出ちゃう。

その瞬間、ぎゅっと抱きしめられた。

ずっと近くにいたけど、こんな風に触られるのは初めてで、また心臓の音が大きくなる。ドキドキして息ができない。

小さくふるふる振動する手をゆっくり大志の背中に回した。

なんてあったかいんだろう。



16歳の冬、初めて好きな人を知った気がした。
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