佐藤さん家のふたりとわたしと。
昨日の夜は楽しかった。

だから今日1日もずっとちょっぴりこテンション高めで、そのまま帰りの時間だった。

ホームルーム終了のチャイムが鳴る。
帰る支度をする2人の元へすぐに駆け寄った。

「ねぇねぇ今日朝言うの忘れてたんだけどイヤホンめっちゃよかったーーーーー♡」

イヤホンの性能の良さに興奮して一息で喋る。

「昨日そのまま何時間も聞いちゃった♡すごいね、あれ!めちゃくちゃクリアだし、閉ざされた空間にいるみたいで、臨場感がすごい!」

「「喋りすぎだっ」」

「すぐ壊さないように大切にするね!」

いつでもどこでも音楽が聞けるように持ち歩いてる、今日もスクールバックの中。それだけでるんるんだった。

「じゃ、俺部活行くから!」

それを聞いてちょっと戻って来たけど。

「うんっ…、帰ろっか大志!」

蘇るあの日のできごと。

沈黙にならないように、何か…何か話さないと!黙ったらダメだ!空気を壊さないようにしないと!

教室から出て下駄箱までやって来た。

何か話そうと頭をフル回転にして必死に話題を探した。

「た、大志のヘッドホンもノイズキャンセリング?」

大志はリュックの片側のショルダーのところにいつもヘッドホンをつけている。

「そうだよ」

「ヘッドホンバージョンもあるんだ!ヘッドホンのが臨場感増しそうだよね!」

「聞いてみる?」

そう言ってリュックからヘッドホンを外し、すぽっと私の耳にはめた。

知らない洋楽が流れてる。

でもそれよりも何よりもヘッドホンに添えられた両手が気になって、まるで私の顔に触れてるみたい。

じっと私を見てる。

目が合ったまま、まっすぐ見た。

閉ざされた聴力のせいで2人だけの世界に思えた。

「ありがとうっ」

たまらず大志の手を掴んでヘッドホンを外した。

ふいっと視線を外してしまった、わかりやすく体の向きを変えるように下駄箱の方へ。

赤くなった顔を見られたくなくて。

自分の靴箱の前、上靴から履き替えようとぎゅっとローファーの後ろの部分を握った。

どうしよう、全然どうしたらいいかわからない。

どんどん追い詰められていく気がする。
今だってそんな態度取りたいんじゃないのに、なんでこんな苦しくなってばっかりなんだろう。

すごく嫌だ。

「帰ろ…っ」

一呼吸置いて、顔を作り直す。

少しだけ笑って、逸らした視線を大志の方へ戻した。
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