佐藤さん家のふたりとわたしと。
いい匂いが漂い始めてもう我慢が出来なくなってきた頃、とーちゃんの合図でバーベキューが始まった。

大人たちはすぐ飲み始める。
キャバ嬢結華の周りで怜くん、正志にーちゃん、じーちゃんまで飲み始めた。

「…とーちゃん何してんの?」

未だせっせことでっかい鍋を前に1人準備していた。

「今日のメインはパエリアだからな!」

「…へぇ」

えびやらあさりやらそれはそれは豪勢なパエリアが出来上がりそうだ。
キャンプにパエリアを選ぶ辺りがうちのとーちゃんらしくて、さすが世界を股にかけて来た男だ。尊敬する。

「奏志ー!お肉焼けたよー!」

「おぅ」

芽衣に呼ばれて行くと、織華ねぇーちゃんが次々と肉を焼いていた。
優志と大志は椅子に座ってもくもくと食べてる。ここでも全く仕事をしない奴ら(優志は許す)

「大志、いい加減変わってよね!私食べれないじゃん!」

「えー、まだ食ってるし」

ハムスター並に頬を膨らませた大志が言う。

「織華ねぇーちゃん、俺がやるよ」

「奏志ありがとう!さすが!」

キィッと睨んだ織華ねぇーちゃんを見て見ぬふりをした大志はごくごくとコーラを飲んでいた。

「私もやる!」

「芽衣はいーよ、座ってろよ」

「私もやりたい!はまぐり選手権やろ!」

「なんだよはまぐり選手権って」

「どっちが先にはまぐり焼けるか勝負ね!パカッてなった方が勝ちだから!」

発泡スチロールの箱からはまぐりを取り出し、2つ手に持って俺に見せた。

「どっちがいい?」

「…右」

「いいよ、じゃあ私こっちね!」

網の上にはまぐりを乗せ、パタパタと芽衣がうちわであおぎ出した。やるとも言ってないのにはまぐり選手権はもう始まっていた。

「これ何?勝負ってことは勝ったらなんかあんの?」

「うん!勝ったら負けた方のお願い1コ聞く!」

お願い…ふーん、お願いね。

「つーかお前自分のばっかりあおぐなよ!卑怯だぞ!」

「奏志も自分のあおげばいいじゃん!」

すぐにうちわを持って来て負けじとあおいだ。芽衣よりも早くパタパタと力を込めて…でもその差は大きかった。

圧倒的大差で芽衣に負けた。

「ぃやったーーーーーー!!!勝ちーーーーーー!!!」

キレイにパックリ開いた芽衣のはまぐりの隣で、開きそうで開かない俺のはまぐり。

ちくしょー、こんなくだらねぇ勝負でも悔しい。

「ねぇー、何してんの?」

俺らの騒いでる声が気になったのか大志がひょこっとやって来た。

「はまぐり焼いてたの!見て、美味しそう!」

「俺にも焼いて」

「じゃあこれあげる」

芽衣が自分で焼いたはまぐりを大志に渡した。

なんだよ、食わねぇーのかよ。

網の上でひとつ残されたはまぐり、遅れて参上と言わんばかりに勢いよくパかッと開いた。

すぐに自分で食べた。

「パエリア出来たぞーーーー!」

だいたいとーちゃんが叫べばみんなが集まる。皿を持って、給食当番みたいによそってもらった。こだわり抜いたパエリアはめちゃくちゃ美味かった。
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