佐藤さん家のふたりとわたしと。
俺が4歳の時、妹が生まれた。

小さな妹の手は触れたら想像してた以上に温かくて、きゅっと握られた指先になぜか俺の方が安心してしまった。


これでもうひとりじゃない、そう思ったから。


両親は仕事が忙しく家にいたことなんてほとんどなかった。俺を佐藤家に置いて海外へ行くこともしょっちゅうだった。

妹が生まれて、もしかしてこの先はみんな一緒かもー…

なんて夢はすぐに砕け散ったけど。

「いい?怜。お母さんたち仕事でまたしばらく帰って来れないから誠一さん、佐和子さん、紘一さんたちの言うことちゃんと聞いてね」

「うん、わかってる」

「芽衣のこともよろしくね」

「うん、わかってる」

俺が7歳、芽衣が3歳の頃。

「お父さんも仕事がんばってくるからな!」

ぽんっと俺の頭を撫でた。隣でばいばいと手を振る芽衣と手を繋いで両親を見送った。

いつも1人で両親の帰りを待っていた佐藤家で、今日からは芽衣もいる。

きっと芽衣も寂しくて不安に思ってるに違いない、お兄ちゃんの俺がちゃんとしないとー…

「たいちゃん、そーちゃん、あそぼ~!」

「「あそぼ~!!」」

…とか思わなくていいほど芽衣は楽しそうだった。

なんだあいつは。どんな対応力してんだ。

後々その話をしたら芽衣は佐藤家を自分の家だと思ってたらしい。

父さんは2人いると思ってたほど、俺たちはよく佐藤家にお世話になっていた。

芽衣が双子と積み木をして遊ぶそばで、結華が織華ちゃんをはべらせてお姫様ごっこをしている。誠一さんが優志を抱っこして、佐和子さんが食卓の準備をしている。

どこの家も親ってものは忙しいのか紘一さんは仕事に出ていた。

佐藤家には母親はいなかったけど、そんなの感じさせなぐらい賑やかで俺にとっては騒がしいくらいだった。

特にすることもなくてソファーに座って本を読もう…としている隣でにこにこと話しかけてくる正志。

「怜くん、何読んでるの?」

「…別に」

「それおもしろい?」

「…うん、まぁ」

俺はこいつが苦手だった。ふわふわした空気が俺とは合わないと思っていたから。

でもいっつも俺に話しかけてくる。

きっと気を遣われてるんだって、思うたび嫌になった。
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