佐藤さん家のふたりとわたしと。
「つらつらつらつらつら…」

奏志が教室の自分の席で顔を伏せ永遠と呟いてる。

「教室はオアシスだー!」

かと思えば叫び出した。前の席の俺からしたら甚だ迷惑なんだけど。やめてくれ。

ここにいる時だけは平穏だ。

普通科と特進科は棟が違うから会うことはほとんどない。会うにしても結構距離があるから放課中にってのも無理がある。これにはちょっと助かると思っていた。

「ねぇお昼買いに売店行こ!」

芽衣が俺たちを呼びに来た。

「おう」

「うん」

財布の中にお金があることを確認して立ち上がった。

教室を出て売店へ向かう。

昼時の売店は人でいっぱい、どうにかこうにか欲しかったパンを買って教室へ戻る階段を上ろうとした。

「あ、見つけました!」

正面から階段を下りて来たのは…例のヤツ。
ほとんど会うことはないって思ってたのに、購買とこの長いお昼休みは盲点だった。

「お昼一緒3人で食べましょう!」

「「………嫌です」」

あ、奏志とハモった!

「付き合ってるのに?」

「「付き合ってねーわ!」」

「付き合ってても昼は別に食べたい派なんで!」

笠原梨々の横を通り過ぎようと奏志が階段を上る。
その後ろで芽衣とどうしようかと次の一歩を踏み出そうか迷っていた。

「でもプラスさんは一緒ですよね?」

その声に奏志の階段を上る足が止まった。

“プラス”

その言葉はよく聞く。言ったことはないけど。

「…あぁっ、私のこと!?」

ハッとしたような顔で芽衣が自分のことを指さした。

「えっと、私は…」

「はぁ…もうなんでもいいよ、みんなで食べればいいじゃん」

どーせこれに付き合わなきゃいけないのかと思ったら、どーでもよくなった。別に昼誰と食べようかなんでもいいし。

「行こ、芽衣」

「う、うん」

「奏志も立ち止まってんなよ、邪魔だ」

とんっと奏志の背中を押して階段を上がった。どこで食べるかなー…

「私は“3人で”って言いませんでした?」

「「は??」」

人がせっかく折れてやったのに。

「いいよ、私他の子と食べるから!」

俺らが何を言おうとしたのか感じ取ったように芽衣が階段を駆け上がって行った。なんだよそれ。
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