佐藤さん家のふたりとわたしと。
奏志が掴んでいた笠原梨々の腕を離した。

「…なんだよ、さっきの」

「…運がよかっただけですよ」

俯き気味に話し始めた、もう一切にこりとも笑ってなかった。
いっつも無駄に笑ってたのに、たぶんそれも演出の一部だったんじゃないかな。


そのスペシャリティってやつの。



「そのポジション、私の可能性だってあったはずです…!なんで…っ」

ちょっとだけ涙を浮かべて、でもそんな涙何とも思わない。もうどこまで本当の笠原梨々なのかもわからない。

「私の方が絶対可愛いし、隣にいたら自慢にだってなるし、絵になるし、おまけみたいなあんな人…っ」

冷たい空気の中、声が響く。

“2人のヒーローに挟まれて気分いいですっ”

「ヒロインにもなれないじゃないですか!!」

奏志とはだいたい考えることが一緒だ。

思ったことも、それを口にする瞬間も、絶妙に揃ってしまう。

でもそんな俺らでも時折ずれることがある。

「てめっ」

「おいっ、奏志!手を出すのはまずいっ!」

荒ぶる声を上げる奏志の体を後ろから抑えるように止めた。それでも収まる事のない奏志は俺の腕を振りほどこうとしながら怒号する。

「プラスとかおまけとかなんだよ!誰が言い始めたか知らないけどっ」

「落ち着けって!」

「お前も思ってるだろ!」

「思ってるよっ!!!」

奏志と目を合わせた。

俺の声で冷静を取り戻したのか、腕を振りほどいた奏志は静かに話し始めた。

「…約束の3日はこれで終わりだ」

「そうだね、もう二度と話しかけないで」

泣きそうな表情をした笠原梨々。
これは本当の表情だったのかな。そんなのどっちでもいいけど。

1人置いて、歩き出した。

「待ってください!」

グッと手をグーにして力を入れ、振り絞るような声で聞かれた。

「…あの人は、…っどんな存在なんですか?」

一瞬立ち止まり、振り返る。



「「大事な子」」



それは偶然じゃなく、きっと必然だ。
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