佐藤さん家のふたりとわたしと。
ー10年前、ランドセルを背負うことに慣れ始めた小学1年生の夏。

まだみんな小学生で毎日一緒に学校へ通っていた。(優志は保育園だったけど)




「えっ、大志って奏志のお兄ちゃんなの!?」

朝学校へ行く時、芽衣が目を丸くしながら聞いてきた。

「「そうだよ」」

「えーーーーー」

何にそんなびっくりしたのか、大きく目を開いてオレたちを見ている。

「…じゃあ、大志は芽衣のお兄ちゃん?」

ちょっとだけ首を傾けた芽衣。

「「そんなわけないだろ」」

なんでそうなったのかわからないけど、それにも芽衣はびっくりしていた。

「え、なんで?なんで違うの?」

「「なんでって…」」

大志と2人、目を合わせた。

「「だって苗字違うじゃん」」

「??」

なんでわかんないんだよっ

「だっていつも一緒にいるのに?」

「一緒にいても兄弟じゃねぇーよ!」

家の前でこんな話してる間に、にーちゃんもねーちゃんも先をどんどん歩いてく。

学校行くのに置いてかれるぞ!

「ほら芽衣も行くよ」

大志が芽衣の手を引いて歩き出そうとするも芽衣は動かない。

「…じゃあ怜お兄ちゃんは?」

「怜にーちゃんは芽衣のお兄ちゃんだよ」

「結華お姉ちゃんは?」

「結華ねぇーちゃんはオレらねぇーちゃん」

「正志お兄ちゃんは?」

「正志にーちゃんはオレらのにーちゃん」

誠一(せいいち)おじいちゃんは?」

「じーちゃんはオレらのじーちゃん」

佐和子(さわこ)おばあちゃんは?」

「ばーちゃんは…」

それずっと聞くのかよ!
大志もいちいち答えてんなよ!

「だーかーらー!!!」

ずっと聞いてられなくてつい大声になった。

「怜にーちゃん以外芽衣のじゃねぇーの!」

「え?」

「血繋がってねぇの!!!」

オレの声に大志もびっくりしてた。

「もうわかったか?いくぞ!」

くるっと前を向いて、ねぇーちゃんたちのところまで走り出そうとした瞬間、後ろから嫌な空気を感じた。

この空気、何度か感じたことがある。すっごい嫌な…


「うわーーーーーーーんっ」


芽衣が思いっきり泣きだした。
今度はオレが驚かされることになった。

「はぁっ!?」

後ろを振り返ると、ポロポロどころかわんわん涙を流してる芽衣に完全固まってる大志。

「え、おい…っ」

芽衣の泣き叫ぶ声に先を歩いていたねぇーちゃんたちが戻って来た。

「芽衣、どうしたの??」

結華ねぇーちゃんが俯く芽衣の前にしゃがみ込んで顔を覗き込む。声を詰まらせてむせび泣く芽衣の頭を撫でながら。

「奏志泣かしたの!?」

オロオロするオレを鬼の顔で織華ねぇーちゃんが睨んで来た。

「ちがっ!」

泣かした?え、オレが泣かしたのコレ??

誰が何を言っても泣き止まない芽衣は大志と繋いでいた手を離し、前にいる結華ねぇーちゃんをもすり抜け怜にーちゃんのもとへぎゅっと抱きついた。

「おっ、なんだ?俺のとこ来るの珍しくない?」

芽衣は泣いた時必ず結華ねぇーちゃんのところへ行く癖があった。

結華ねぇーちゃんは俺ら弟たちには厳しいけど妹の織華ねぇーちゃんと、お隣さんの芽衣のことは可愛がっていて芽衣もなついていた。
だからこんな時は迷わず結華ねぇーちゃんのところへ行っていたのに。


この時だけは違ったんだ。


「何したの!?」

「な、なにもしてない!」

鬼の顔が増えた。
織華と結華、うちの女どもは怖ぇーんだ。

泣いている芽衣を怜にーちゃんがめんどくさそうに手を引いて学校へ行った。

その後ろを大志と2人で歩いた。

いつも真ん中には芽衣がいるから2人で並んで歩くのはなんか変な感じで、何も喋らないまま学校に着いた。

学校までの距離って結構長かったんだ。
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