佐藤さん家のふたりとわたしと。
「お兄ちゃん!」

「おーぅ、早く帰るぞ」

「うん」

迎えに来てくれた。
本当、それは、マジで、ありがたいし嬉しいんだけど…

「走れよ」

キリっとメガネを掛けなおし、私に視線を送る。

「!?」

日向野家には迎えに来て、乗せて帰ってくれるような乗り物はない。あるのは怜お兄ちゃん愛用の自転車だけ。
それも現在大学2年生の怜お兄ちゃんが高校の入学祝いでお隣の佐藤さん家のパパからもらった乗り尽くして錆ついてる自転車一台で私のはない。
しかも今にもチェーンが切れそうなくらいキーキー言って隣にいるのも恥ずかしい。

「いくぞっ」

「えーーーー!待ってよっ!!」

勢いよくお兄ちゃんが漕ぎ始める自転車の隣を必死で置いてかれないよう走るのみ、私が!!!

それなら1人で歩いて帰る方がよっぽどいいんだけど!なんでこんな寒い中、全速力で走らなきゃいけないわけ!?

最悪っ!!!

…まぁ、全く持って体力のない私はすぐに疲れて歩き出すんだけど。

「おい、芽衣!そんな遠くにいたら危ないだろ!」

「お兄ちゃんはチャリだけど、私は生身なの!なんでそんなひょろひょろなのにチャリだけは漕ぐの早いの!!?」

さっきまでめちゃくちゃ寒かったけど、今は暑くてしょーがない。

マフラーを外して自転車を漕ぐのをやめたお兄ちゃんのところまで歩いた。
背負ってた小さなリュックを自転車のカゴに入れてもらい、今度は自転車を引きながらお兄ちゃんも一緒に歩く。

「芽衣、今日どこ行ってた?」

「友達と遊んでた、友達の(さき)ちゃんと」

「双子は?」

「双子?も友達と遊んでたんじゃない?知らないけど」

お隣さんの佐藤さん家の双子の大志と奏志、仲良いしよく遊んでるけど別に毎日一緒なわけじゃない。お互い別に友達もいるし、それぞれで過ごすことだってある。

ポカポカしてきた体に冷たかった風が涼しさに変わって気持ちよかった。
冬にマラソン大会をする理由ってこれなのかな、あっつくなって健康になった気がする。代謝もよくなった気がして来た。

「…遅くなる時は言えよ」

「え?なんて?」

違うこと考えながらぼーっとテキトーに聞いていたから、お兄ちゃんのちっちゃな声がよく聞こえなかった。

「遅くなる時は連絡しろって言ってんの!」

「遅いって、まだ8時だよっ」

「今日から8時以降外出禁止!日向野家のルールは俺なんだから、妹はそれに従うように!」

自転車を引くお兄ちゃんの、おそらく寒さでガッチガチであろう唇から発された日向野家の新ルール。

うちにルールなんてものがあることを初めて知った。

てゆーかっ

「なんでお兄ちゃんがルールなの!?」

「佐藤家への外出のみ8時以降も認めよう!兄ちゃんも鬼じゃないから!」
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