佐藤さん家のふたりとわたしと。
「あ、傘がない!」

帰ろうと下駄箱に来て結華が言った一言。

「傘パクられてんのかよ」

こんな雨の日に傘パクられてるとか、運のないヤツだ。
しかも結華の紫のビニール傘をパクっていくなんて、なかなかの強者。

「最悪なんだけどー」

朝は降ってなかったし、忘れて来たヤツがパクってったんだろう。

「しょーがねぇから入れてってやるよ」

ビニール傘よりマシなちゃんとした傘は多少狭くはなるけど2人でも大丈夫な大きさだ。

図らずとも相合傘で一緒に帰ることになった。

パラパラと降る雨の中、ここで考えたのはひとつー…


キスってこのタイミングじゃないのか?


相合傘ってシチュエーションは悪くない。

でもどんな時するんだ?歩いててするのは不可能だろ?

たとえば信号待ちの横断歩道とか…傘で隠れてるし、ムードはそれっぽくなるか。

「ねぇ、怜」

また結華に先越される前にどうにかしようと、引き寄せようと思った。

「あれ織華(おりか)じゃない?」

「え?」

「ほら、あそこの本屋の自転車置き場!」

結華が指さした方向を見ると、自転車置き場に縮こまった結華の2つ下の妹・織華ちゃんがいた。
雨に濡れないように、屋根のあるところで止むのを待ってるんだろう。

………キスは終わりだ、取り消し。

「織華、どうしたの?」

「お姉ちゃん!」

「傘ないの?」

「うん、…忘れちゃって」

「しょーがないなぁ…」

グイっと俺が持ってる傘を取り上げた。

自慢じゃないが力はない。

ぶっちゃけ結華のがある。
だから簡単に傘は奪われた。

「この傘貸してあげるから!」

「それ俺のだぞ!!」

結華も同じように自転車置き場の屋根の下に入った、雨に濡れないように。

「じゃあ雨が止むまで一緒にあたしも待ってる。怜は帰って、傘あるし」

傘を閉じてこれまた同じように自転車置き場の屋根の下に入った。

「俺も待つよ。家帰っても暇だし」

「そう…じゃあ、雨止むまでしりとりでもしよ!」

「は、なんで?」
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