佐藤さん家のふたりとわたしと。
「怜ーーーー!どうしたの、びしょびしょじゃない!?」

濡れたまま家に帰ると、母親がめちゃくちゃ驚いてた。普段真面目で通ってる俺には珍しいことだから。

「怜どんくさいから」

「お前…!」

なんだかんだ一緒に帰って来た結華がそのままうちにまで来た。

俺がシャワーを浴びてる間もずっと俺の部屋で待っていた。



だから今、部屋で2人きり。



「髪の毛乾かしてあげる」

「いいよ、自分で出来るし」

「え、照れてんの?」

「照れてねぇよ!」

慣れた手つきでドライヤーで乾かし始めた。いつもテキトーにやってる俺とは違って、丁寧でキレイにまとまっていく。

下に妹も弟もいるからな、やってあげてんのかな。

いつになく落ち着いた仕上がりになった。

「さっきは…ありがとう」

乾かし終わったドライヤーのスイッチを切ってコンセントを抜いた。

「別に、最後までダセぇ感じに終わったけど。…俺も、ありがと」


隣に座った結華と目が合った。


これ以上の言葉が出て来なくて、ただ視線を合わせる。

こうゆう時は何もいらないんだ。

そうゆうことなんだ。


ゆっくり結華の唇に近付いた。



初めて、キスをした。



「「………。」」


顔を離してもう一度目を合わせた。

でも2人ともなんか表情がおかしかった。

「なんか…違わない?」

「わかる、想像と全然違った」

「そうよね」

「興奮しないっていうか…」

「うん、なんか盛り上がらないわ」


「「…………。」」


さっきまでの甘い雰囲気の一変、仕切りなおすように結華がパンっと手を叩いた。

「私たち付き合うの向いてないわね!別れましょ!」

「どんな別れ方だよ!どんだけ振り回してくんだ!」

でもなんかそれに笑ってしまった。

2人して、何がそんなにおもしろかったのかよくわからなかったけど。

ムード作ったりなんかしたりするより、俺らにはこっちのが合ってるんだ。

改めて机の上に置いてあったメガネを掛け直した。

「怜がいてよかったわ、幼馴染みでよかった!」

「そうだな…、俺も結華が幼馴染みでよかった」


いくらいつでも一緒にいるからって、それが恋人とは限らない。

別に恋人じゃなくたっていいじゃないか。

結華がこの先誰と付き合おうと誰と結婚しようと俺には関係ないけど、でも…困った時にはすぐに駆け付けるよ。



そんな幼馴染み。


ずっとそんな関係だ。
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