旅立ち
「――だからっ! 私も、いつも言ってるでしょ!? この国ではね、女の子は胸より長くならないと、髪を切ってはいけないの!」

言い争いの相手である、彼女のおばは、50代くらいで、そこそこいい体格の、香水とお洒落好きな人だった。キギが2歳のときから、今に至る12年間、面倒を見てくれていた。
母さん、と呼べと言われていて、キギもそう呼んでいる。


「私の故郷、ここじゃないんでしょ、関係ないっ! なんで未だにそんな古くさい言い伝え、守ってんの。かっ……母さんだって、母さんじゃないじゃん」

キギが納得していないのは、背中につかえて長ったらしくなってきた髪を、ちょっと切ったら怒られたことだった。


実は今までもちょこちょこ切っていたが、今回はさすがに、目に見えてわかる長さにしてしまったので、大目玉だ。

この国のしきたりでは、女の子のこどもは、胸の辺りまでは髪を伸ばさなくてはならなかった。
少々、そろえる程度は咎められないが、あまり派手にやると、自宅謹慎だ。
外に出られないのは、元気の良い彼女にはつらかった。

実は特別な条件はある。
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