旅立ち
聞きなれた足音。重たそうな靴の音。
しかたなく振り向く。
チャラそうな若い男がへらへら笑って立っていた。

短い金髪。前髪と揉み上げは長い。顔に当たらないよう、銀の髪留めで留めている。土に汚れた薄茶の作業着姿だった。


「おや。むくれていては、可愛い顔が台無しですよ、お嬢さん」

「……ふんだ。寄るな」

「キギ、可愛い顔が」

「うぅーるさーい!」

口を引っ張られてふがふがと唸る彼女を、少し楽しんでから、男は手を離した。
「……なんだリキュ、何しに来やがった!」

「からかいにねー」

「来るな! お前のよーな男を、すとーかーというらしいぞ!」


可愛い、という言葉に、バカにされているようなニュアンスを感じ取ったキギはリキュを睨み付けた。

彼は、ずっとそばにいた。いつからかわからない。
素性はよく知らない。
ここに来たときに、知り合った。

とりあえず、奥の方の森で木を切っているらしい。それが仕事のようだ。

彼女が一人のときに、ふと、森から現れる。

「仕事は終わったのか……」

さりげない嫌味のつもりで、無邪気を装って聞いてみた。
小さく、首をかしげてみたりなんかもする。

……いや、それは余計かもしれない。
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