旅立ち
「まーだ。今、やっている」
しかしリキュは気分を害したような目もせず、軽い話題だというように合わせていた。
「じゃあ、戻ればいいのでは? ……小娘の相手なんかしても、つまらないだろ? 私は、その……ちょっと、今、暇、だけど」
後ろ髪を手でさりげなく押さえつける。一応、ぎりぎり胸の長さに足るかどうかではあるが、気まずい。
……しまった、帽子を持ってくれば良かった。
「いやいやー。エネルギー補給、みたいな。ちょっと休憩よぉ。寂しいんだよー。人肌が超恋しい。可愛いお嬢さんと、仲良く出来て、おれちゃんとっても幸せっ!」
すごく笑顔を振りまかれた。
気に食わず、適当に軽口を叩きたかったが、気がそれてしまった。なんだか、遠くから足音が聞こえ出したからだ。
家に続く道には、土の滑り止めも兼ねた、踏みしめると音の鳴る飾り石を敷いているから、何かが通るとわかるのだ。
「……そういうのを気安くいってっと、いつか」
言いかけた台詞を思わず忘れてしまったほど突然、また、ガサガサと音がした。あれ、もう登ってきたのかと驚いた。振り向く。
「あれが……」
「本当だ、あの方だな」
男のような、低めの声で、ぼそぼそと話しをしながら、マントを身に付けた二人がこちらに来るのが見えた。
顔はわからない。奇っ怪な面(木で出来た、変な顔の模様のやつ)を付けているので、どうにも反応しづらい。
「……お、迎えが来たんじゃないの?」
仕事の仲間か、とリキュに向かってそう言ってみるが、顔はこちらを向かなかった。
身長差があるため、目線はもともと合いづらいのだが、現在の、彼の、意としてこちらに向かないかのような感じは初めてだ。
「えっ、なんだ、どうし……」
うわ、と言うより早く、腕がつかまれていた。
誰にかと思えば、マントを羽織った人物の一人。やや背が低い方にだ。
目の前で、何が起こったのか彼女は理解し難かった。