旅立ち
えーっと。とキギは唸った。こういう状況を、なんというんだったかな。
ていうか、スィロ母さんはどうしたんだ。

チラッと右後ろに視線をやる。いつみても、立派な木造平屋が建っている。年期が入った壁の染みは、どこか趣さえ感じ……じゃなくて。

そういえば、母さんは、今日は不思議なほど、家から出てこない。この状況が、見えないわけないだろうに。
あー。わかったー。
おっかないから出たくないんだな!

「……えっと。私、昔から、肌がすぐ赤くなってしまうんですよ。だからあの、腕を掴むのはせめて、もう少し緩やかに……」

「…………」

人物は何も答えない。
体格は、同年代くらいに感じる。結構跳ねた、癖のある髪が、面の横からはみ出していた。長さは、今の自分よりは短い、というくらいだろうか。

ほんの少し、手の力が緩まった気がした。

……案外優しい人なのだろうか。

「つっこむのは、そこではないだろ!」

リキュがようやくこちらを向いた。しかも、腕を組み、したり顔。なんなんだ。






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