Hello,僕の初恋
「ノン、遅かったじゃん」
お姉ちゃんの声が降ってきて、私は顔を上げた。
スウェット姿のお姉ちゃんの髪は濡れていて、彼女がお風呂上りだということが想像できた。
「お姉ちゃん。お母さんは?」
「今日、夜のパートだって。お父さんも残業みたい。私とおばあちゃん、ご飯もう済ませちゃったから。あんた自分で温めて食べてよね」
タオルで髪をパタパタと叩く姉の姿を見て、おじいちゃんのことを思い出した。
私もおじいちゃん似だけど、お姉ちゃんはもっとおじいちゃんにそっくりなのだ。
「ねえ、お姉ちゃんって、ベース弾けたよね」
ふと、浮かびあがった疑問を口にする。
「あー。少しだけね。中学の文化祭で弾いたけど、もう随分弾いてないから無理かも。何、ベースがどうかしたの?」
お姉ちゃん、文化祭で弾いたことがあったんだ。
お姉ちゃんとは三歳離れているので、彼女の中高時代をよく知らない。
姉妹なのに、お姉ちゃんでもそんなすごいことが出来るんだ、と思った。
直ちゃんはバレー部のエースだし、アヤは超絶繊細なネイルアートが出来る。
美羽はファッションセンスがあるし、デザイン科のファッションショーにも頼まれて参加していた。
ひょっとしたら、何も出来ないのは私だけなんじゃないだろうかなんて思えてくる。
「はーん、分かった。ベース弾いてる男の子、好きになったとかでしょ?」
私が黙っていると、お姉ちゃんがニヤニヤした顔でそう言った。
瞬間、身体の熱がかあっと上がっていくのが分かる。
「違っ! 違うからっ!」
「重低音カッコイイよねぇ。そりゃあ、惚れるよねぇ」
「だから違うの!」
「ふーん。怪しすぎ」
お姉ちゃんは私をからかってから、「ドライヤーかけよう♪」と洗面所の方へと走っていった。