Hello,僕の初恋
その日は立派な秋晴れで、直ちゃんと帰った夜道には星がたくさんきらめいていたはずなのに、私はひとつも覚えていなかった。
イチョウの葉も、坂道から見える夜景も、晩秋の寒い風も、全てが背景でしかなかった。
曽根崎望という人のことを考えていたからだ。
こんなふうに、ひとりの人のことだけを考えるのは初めてだった。
この時の私は、胸がせつなくなるのは人が去った時だけだって、そう思い込んでいた。
おじいちゃんのことを考える以外でせつない気持ちになることが、この先に待っているなんて、知るはずもなかった。
一週間後の十一月末。私は世界でいちばん綺麗なものと出会うこととなる。