Hello,僕の初恋
寒さで冷たくなった鼓膜に届いたのは、大きく叫んだ直ちゃんの声だった。
聞いたこともないような声で、街中に聞こえるくらいの勢いで、音が響く。
「ノンはそうやって言い訳ばっかり。
私の言葉なんてちっとも聞いてないじゃん。
……私がいないと、何も出来ないくせに!」
一瞬、自分が何を言われたのか分からなかった。
ひどいことを言われた、と思う前に、ひどいことを言ってしまったと思った。
こんなに感情的になった直ちゃんを見るのは初めてだ。
「……っ」
ごめん、と謝りたいのに言葉が出てこない。
吐き出した空気は、小さな嗚咽とともに白くなって舞い上がっていく。
涙が少しずつ溢れてきて、つーっと流れた。
このまま凍ってしまいそうだ。
「……ごめん、酷いこと言った。帰るね」
直ちゃんは私の顔を見ると、そうぽつりと呟いて走っていった。
長い階段を駆け下りていく彼女の後ろ姿を、見えなくなるまでひたすら目で追いかけた。
直ちゃんと喧嘩をしたのは、それが初めてのことだった。