Hello,僕の初恋
「花音ちゃん、ありがとう」
ノゾムくんはそう言って笑って、包帯の巻かれた右手で目尻をぬぐった。
そして私の目を見つめて、いつもの優しい声で言う。
「俺さ、曲を作るよ。アッくんを送り出すために。
スマホのアプリとか使ってさ。
……俺は卒業ライブには参加できないから、ベースは誰かに頼まないといけないけど。
俺なりに出来ることで、アッくんを笑顔で送り出したいんだ」
彼の目に浮かんでいた涙は乾いていて、またいつもの柔らかな笑顔に戻っていた。
春の日に似たこの陽気が、乾かしてくれたのかもしれない。
私の目から流れていた涙も、いつの間にかすっかり乾いている。
ノゾムくんが、私の名前を呼ぶ。
「ねえ花音ちゃん」
「うん」
「また歌詞を書いてくれる?」
「もちろん!」
ノゾムくんの言葉に、私は全力で頷いた。
歌詞を書くのだってさ、簡単じゃないよ。
簡単じゃない。
けれどもきみのことを想うと、なんだって書けそうな気がしてくるんだ。
歌詞を書くこと。
それが、今の私に出来る一番のこと。