Hello,僕の初恋
一瞬、その場がしーんと静まり返る。
ミカ先輩は少し固まった後で、驚いて目を見開いた。
「俺もミカにお願いしたいな。他のバンドのやつに頼むなら、ミカにお願いしたいと思うよ」
ノゾムくんがいつもの優しい声でそう言う。
ミカ先輩は困ったような顔をしたあとに、ふっと眉尻を下げて笑った。
「しょうがないなぁ。いっちょやりますか! ベースは久々だけど、練習すればどうにかなるでしょ。あ、でも私まともなベース持ってない」
「先輩、このベース使って下さい」
私がおじいちゃんのベースを軽く鳴らすと、ミカ先輩は目を丸くしてじっくりと本体を観察していた。
「ええっ!? いいの!? これめっちゃいいやつじゃない!?」
「決まりだな」
いつの間にかそばまで歩いてきていたショウくんが、そう言う。
中庭の入り口の方から、ノゾムくんのお姉さんもこちらに向かってきていた。
ミカ先輩が、気合いの入った声で言う。
「ま、進路も決まって暇人だしさ。練習するよ。ノンちゃん、練習付き合ってくれる?」
「はい!」
あたたかい冬の庭に、笑い声が降る。
卒業ライブまであと二ヶ月。
それまでに私は、私なりにやれることを精一杯やるんだ。
ノゾムくんと目が合って、私たちは微笑み合う。
穏やかな冬の午後は、ちょっと痛くて、ちょっと恥ずかしくで、とても嬉しい時間だった。