Hello,僕の初恋
「花音ちゃんは、もう帰るの?」
「うん」
私がそう言うと、ノゾムくんは目を細めて笑った。
少し茶色がかった髪は、やはり私と同じくせっ毛だ。
横に並ぶと私の二〇センチくらい上に顔があって、睫毛が長いのがよく分かる。
カッコイイ重低音をかき鳴らしていたとは思えない、優しい表情だ。
なんだかベースっぽくない人だな、と私は思う。
「じゃ、俺も帰ろ。電車なんだよ、俺。遅くなったら、帰りの電車少なくなるし。駅までって、ここ降りてったら行ける?」
「うん、行けるよ。おうち、どこなの?」
「大学前。花音ちゃんは?」
「うちはここを降りてすぐだよ。駅のそば。
この道ね、夜景が綺麗なんだぁ。宝石箱みたいだよね。信号とかブレーキランプとか、時々色が変わってね。
クルーズ船が来てる時なんか、もっとすごいんだよ。
この景色見てるとなんか、心がすーっと澄んだような感じになるんだぁ。
まるで絵の世界に入り込めたような気分になっちゃうの」
冬のはじまりの心地良い風に吹かれて、私はすっかり上機嫌になっていた。
それはバンドの余韻のせいでもあったのかもしれない。
高揚感に煽られて、ついつい口が弾んでしまう。
しまった、喋りすぎた、と思った時には、ノゾムくんは私の目を見てふふふと笑っていた。