Hello,僕の初恋
「今日さ、文芸部の部誌配ってたでしょ?」
「うん。知ってたの?」
「俺、花音ちゃんから受け取ったんだよ」
ノゾムくんはそう言うと、鞄の中から一冊の冊子を取り出した。
レトロな装飾を施した街灯に照らされて、『第五十三回県立南高等学校文化祭 文芸部誌』の文字が光る。
印刷室でコピーしたそれは、パンフレットと違ってカサついた紙質のものだ。
ノゾムくんはそれをパラパラと捲ると、緩やかに笑って口を開いた。
「茜さす霜月の午後 校舎の壁が、やわらかなピンク色に染まる 色づいたのは木の葉か 白壁か それとも私の頬か」
「ぎゃー! 読まないでぇ!」
「これ、すごいじゃん。好きだよ、俺」
好きだよ、なんて。
私に言ったわけじゃないのに、詩のことを言っただけなのに。
まるで告白されたかのような気分になって、私の全身はかあっと熱を帯びた。
今夜はぐっと気温が下がると、テレビのニュースで言っていたはずだ。
タイツも履いてこなかったし、手袋だってしていない。
けれども、私の身体はすっかり熱くなって、のぼせてしまいそうだと思った。