Hello,僕の初恋
「お、お疲れ!」
なんと言えばいいのか分からずに、私は夕方にふさわしいこの言葉をチョイスする。
ノゾムくんの優しい二重まぶたが柔らかく弧を描いて、「お疲れ」と返された。
「ほ、他のメンバーの子たちは?」
「チャリだから、先行ってるって。すぐそこのマック。花音ちゃんは歩きでしょ?」
「うんっ」
「じゃ、一緒に歩いて行こ」
どきどきした。
打合せに向けての緊張のせいなのか、クラスメイトが見ているせいなのか、
どうしてなのかは分からない。
私はクラスメイトたちから逃げるようにして、ノゾムくんと一緒に廊下を歩いた。
「今日は楽器持ってないんだね」
「練習しないからね。みんな、花音ちゃんと会うの楽しみにしてるよ」
一階へと続く階段をふたりで下る。
まるで昨日の再現のようで、私の心は昂った。
心の奥で重低音が鳴る。
文化祭のテーマソングが頭の中に流れ始めて、私はまた上機嫌になった。
ひとつ確信したことがある。
目の前にいる彼は、言葉に表せない初めての気持ちを連れてきた。
昇降口から冬の風が舞い込む。
階段から着地する時、身体がずっと宙に浮いているみたいだった。