乙女ゲームオタクな私が妹の婚約者と結婚します!
あれはわざと他のスーツを隠して、それしかないようにされてたのだ。
今度はなんの嫌がらせをするつもりなんだろう。
そればかりが頭の中をぐるぐると巡っていた。

「し、仕事するから出てって」

「なに?生意気なんだけど。私とおしゃべりできて嬉しいでしょ?他に口をきいてくれる人もいないくせに」

「そんなことない」

そう答えてから、ハッとした。
黙っていればよかった、失敗したと―――響子は私に近寄るとにっこり微笑んだ。

「そうよね?今は天清さんがいるものね」

響子の手には一階の自販機で買ったミネラルウォーターがあった。

「これ、飲もうと思ったけど、月子にあげるわ」

キャップはすでに空いていて、棚にどんっと追いつめると頭から水をかけた。
ペットボトルの中身がからになるまで。

「頭、冷えた?天清さんも今は結婚したばかりで、浮かれているみたいね。月子が美人だなんておかしいことを言ってるけど、私がそばにいれば目が覚めるわ。月子がどれだけ退屈でつまらない子だってこと、わからないのよ」

そう言われて俯いた。
今まで何度も聞いた言葉だ。
運動や習い事で負ける度に響子は私にそう言い聞かせてきた。
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