Kiss Me Kitty! ~年下猫系男子とゆる甘アパート生活~
滲む涙を拭いながら、ポカポカと彼を叩いて小走りになる。
ふたりの帰路は、やがて笑顔に包まれた。
(……ん?)
ふと、比菜子は足を止め、振り返る。一メートルほどのブロック塀が続く住宅地に入り、そこを睨むように佇むカーブミラーを、ジッと見つめた。
「比菜子? どうした」
ツカサもそこへ目を移すが、カーブミラーには誰もいない夜道しか映っていない。
(今、誰かに見られてたような気がしたんだけど……)
「……ううん。気のせいだったみたい」
踵を返し、アパートの方向へ向き直った。
「行こ」
歩きだした彼女に、ツカサも追いかけるように付いていった。
背後のカーブミラーに再び誰かが映ったことに、ふたりが気づくことはなかった。