Kiss Me Kitty! ~年下猫系男子とゆる甘アパート生活~

左右の扉の間で比菜子に向き直ったツカサは、唇を手の甲で隠しながら頬を染める。

そして言いづらそうに目を泳がせながら、

「俺が比菜子の部屋に出入りしてることは、有沙には言わないでくれ」

と、やっと目を合わせてそう告げた。

(……え)

胸の奥に刺すような痛みが走る。

「バレると面倒なことになるんだ」

婚約者というのは有沙の一方的なものではないか、と微かな希望を膨らませていた比菜子は頭を殴られた心地がした。

いつもならキュンとするようなツカサの照れ顔を前に、今は別の真っ黒な感情に侵食されていく。

「……わかった。誰にも言わないよ」

唇を縛り、口角を引き、笑顔を作った。

ツカサは呑気に「サンキュ」と微笑んだが、その影で比菜子の笑顔はどんどん暗くなっていく。

(……そっか。いつもと同じだ。私は誰かの一番にはなれない。そういう運命なんだ)

比菜子はいつも通りに扉を開け、「今日の夕飯は?」とはしゃぐツカサを招き入れる。

彼の背中を眺める比菜子は、瞳の奥の涙を隠したまま笑った。


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