Kiss Me Kitty! ~年下猫系男子とゆる甘アパート生活~
頭では納得している。
ツカサにとって有沙は婚約者で、自分は家出中の家政婦に過ぎないこと。だから部屋へは出入りするが、こうして比菜子を誰かに見られるのは避けようとしているのだということ。
ちゃんとわかっている。
しかし消化しきれない感情の波が押し寄せ、切なさでパンクしてしまったそれは目じりから涙となってあふれだした。
「……なんで私……いつもこうなのかなぁ……」
手の甲で押さえても、次々に出てくる涙は止まらなかった。
すると──
「比菜子さん? 大丈夫ですか」
包み込むような優しげな声で名前を呼んだその人が、すぐ背後に立っていた。
艶のある黒髪をひとつに束ね、爽やかなワイシャツをエプロンで締めている、彼は──
「……店長さん?」