Kiss Me Kitty! ~年下猫系男子とゆる甘アパート生活~
振り向いた比菜子をジッと見つめる戸崎は、予想通り涙していた彼女に気づき、また一歩そばへ寄る。
「やっぱり。店内から姿が見えたので追いかけてしまいました。……なにか悲しいことでもありました?」
「い、いえっ、すみません……なんでもないんですっ」
涙を指でかき消そうとしていると、目の前に戸崎が差し出した紺のハンカチが現れる。
「使ってください」
「……店長さん……」
優しさの意図はわからないが、傷ついた比菜子の心に今はじんわりと沁みわたる。
素直にハンカチを受け取り、角で涙を吸いとった。
「比菜子さんが泣いていると僕も悲しくなります。……あ、勝手にお名前ですみません。ツカサくんがそう呼んでいたので」
「いえ! それは、全然……。すみません恥ずかしいところを見せてしまって……。ハンカチは洗って返しますね」
「そのままでいいですよ。あの、よければお家まで送りましょうか? なんだか心配なので」
「え!? そんな、店長さん、それは大丈夫ですから!」
単純な恥ずかしさから遠慮したが、すぐに自分の家がボロアパートだと思い出して首を大きく振って断固拒否する。