籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「理由は、」

 彼は一言呟くようにしていった。

「君を知りたいから。これじゃダメかな」

 私よりは年上に見えるがまだ若いその男性はそう言った。
私を知りたいなど、言われたことのない発言にますます困惑する。
今まで何度もナンパをされた経験があるわけではなかったがこれはナンパのような軽いものではない気がした。
 根拠はないが、そういう類のものではない。
であれば、何なのだろう。30センチ差はあるだろう彼を見上げながらどう返答しようか考えていると

「名前は…和穂と言います」
「かずほ…さん?」
「そうです。連絡先は…」

 和穂と名乗る彼はジャケットのポケットから紙とペンを取り出すとスラスラと何かを書いて渡してきた。
 それは電話番号が書かれたもので、連絡先だと悟る。
おずおずと正方形の紙を受け取った。

それじゃあ、と言って背を向ける彼は本当にスタイルがいいとどうでもいいことを思いながら手の中にある連絡先をじっと見つめた。

この日、和穂と名乗る男性のことも気にはなっていたが、それよりも孝太郎のことを考えながら眠りについた。
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