籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
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「…眠い、」
昨夜はほぼ眠ることが出来ずにいた事と、孝太郎に振られたせいで寝る直前まで涙を流していたから酷い顔をしていた。
本当はあと二日間、大英博物館やヴィクトリアアルバート博物館など観光する予定だったがすべて白紙だ。
便を変更して今日日本に帰るからあまり観光も出来そうにないしこんな精神状態では楽しめそうにない。
荷物をまとめてホテルから出るがスマートフォンを何度確認しても孝太郎からは連絡がなかった。
私たちが出会って付き合って…結婚まで約束をした彼が裏切ったとは信じたくはない。
しかし別れを告げられたのは事実だ。
いつまでも過去に縛られていてはいけない。
チェックアウトを済ませてからフラフラと歩いていると名前を呼ばれた。
「はすみさん、」
「…っ」
孝太郎ではないのに、もしかしたらなんて思い振り返るとそこには昨日助けてくれた和穂さんがいた。
「昨日はどうも」
「…あ、私こそ、ありがとうございます」
昨日とは違って私服姿だった。
「今日はもう帰国するの?」
「えぇ、まぁ…」
「一人で?」
「…はい」
あまり聞かれたくないことだったからそれ以上聞くなというオーラを出したつもりだったが、彼は引かない。むしろその話題が気になっているようだった。
それは当たり前のことかもしれない。夜に一人で泣きながらベンチに座っている女性がいたらその理由が気にならない方が少数だろう。
「俺は今週中には帰国する予定。日本に帰ったらぜひ一度会ってほしい」
「それは、」
「待ってる」
曖昧に頷くと嬉しそうに口角を上げた。じゃあ、と言って彼は左手首につけていた時計を確認しながら去っていった。
連絡をするつもりはなかった。感謝はしているが、だからと言って彼を信用するほどの情報はないしそれよりも心にぽっかりと開いた大きな穴を埋めるのが先だ。
この後私はせっかくの観光もせずに帰国した。