籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
その時、

「わ…っ」
「危ない、」

 誰かに支えられる。顔を上げるとそこには和穂さんがいた。
スピーチは?と思ったが既に和穂さんの父親が壇上に立っている。

「で、何かあったの?」
「…」

先ほどまで私の肩を掴み怨恨を募らせた目を向けていた泊さんは顔を歪めていた。
和穂さんはすっと笑みを消した。
そして私の肩を引き寄せて

「紹介します、私の妻になるはすみです」
「…」

そう言った。まるで彼女にそれを示すように静かに伝える。

 目を真っ赤にして今にも泣き出しそうな彼女は項垂れた。
顔を俯きそのまま私たちの脇を通り過ぎる。

「大丈夫かな」
「ありがとうございます、すみません」
「彼女は君と出会う直前に縁談の話を持ち込んできた泊涼香さんだ。常盤家としてはそれなりに関わってきた家だったんだけどはすみと再会したから断ったんだ」
「どうして…」
「どうして?簡単なことだよ、その時は君に興味があったんだ。逃げられた経験がなかったからね」
「…」
「でも今は興味じゃなくて君に惹かれている。いや、好きなんだ」

 じんわりと手のひらに汗が滲んできた。
ドクドクと煩い心音が彼に届いているのではなどとどうでもいいことが脳内に浮かぶ。

「私、」
「先に客室に戻っていてくれないか。もう少ししたら戻るから」


和穂さんはそう言うと背広の内ポケットからホテルのカードキーを取りだす。
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