籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
…―…


 今日は業務量が多く土浦さんと一緒に遅くまで会社に残っていた。

和穂さんもまだ帰宅していないはずだ。帰る際は必ず私たちのフロアに顔を出してから帰宅するから。

 会社の壁にかかる時計を見ると時刻は19時を過ぎていた。
お腹が空いてきたがまだ帰るわけにはいかなかった。


 五月は四半期決算発表がある。
それらの資料を作るのは役員の下にいる所謂会社の中枢を担う部署が行うのだが、専務の資料に関しては私たち秘書が作成する。
 三月に株主総会があったばかりだがその際には私は人事部にいたからそのような資料つくりの経験はない。

 はぁ、とため息を吐きながら私は頭をフル活動させていた。
デスク上の飲み物が空になっているのを見て、私は席を立った。

フロアを出て廊下突き当りに自販機が設置されている。自販機の前で何を飲もうか考えていると肩を叩かれた。


「…孝太郎?」


 振り返るとそこには孝太郎がいた。
部署が違うのにどうしてここにいるのだろう。
疑問が顔に出ていたのだろう。孝太郎は神妙な面持ちで私に言った。


「話がある」

「話?」

「今日…時間ないかな、この後」

「ないよ…。忙しいの、それに…孝太郎と話すことなんかない」

「あるんだよっ、俺はまだはすみのことが好きなんだ」
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