籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
―佐伯はすみ

 その名前をロンドンで出会った女性から聞いた時すぐに思い出した。
何故ならばそれは数年前、突然顔合わせの予定を放り出して“逃げた”女性の名前だったからだ。

 偶然同姓同名の女性に出会っただけだと思っていたが話を聞くとやはり彼女は佐伯家の長女、佐伯はすみだった。

最初はただの興味で、彼女に近づいた。

 逃げられた経験など今まで一度もなかったからだ。しかしまた会いたいと思うようになったのは俺の方で佐伯はすみは全く俺に興味がないようだ。

最初の縁談話の時と同じだ。縁談が嫌などと言われたことは一度もない。
そもそもはすみとの縁談が白紙になってから数年、ちょうどはすみと再会する少し前に新たに縁談話が来ていた。それを受けるつもりでいたが、再会したことにより、俺の興味は佐伯はすみにしかなかった。

 日本に帰国してからも、彼女から連絡が来るのを待っていた。

連絡が来たときは嬉しすぎて大人げなく喜んだ。

きっと、最初の顔合わせの段階で実際に彼女と対面していたら、おそらくそれがきっかけでも彼女に惹かれていただろう。

 今まで出会ったお嬢様の中でもいい意味でお嬢様らしくない言動をし、強気な面持ちを崩そうとはしないくせに少し触れただけで一気に子供のような反応になる。

しかし普段は育ちの良さが出て上品さを感じる所作を見せる。顔にすぐ出るところも可愛らしい。
そんな彼女に夢中なのは俺の方だろう。

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