籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「どうでしたか?婚前旅行は?」
「なんで藤沢さんにそんな個人的なこと言わなきゃいけないわけ?いいから自分のデスクに戻りなさいよ」
「相変わらず夏子さん冷たいな~!いいじゃないですか!私今はフリーなので幸せなお話が聞きたくて!」
「フリー?他部署の男と寝てるって噂だけど」
「え!ひどい~そんなことあるわけないじゃないですか…」
涙目で夏子に媚びるような目を向けるが、夏子は一切動じない。
この間私はずっと無言だった。知っていてその話題を出してきているのだろう。
「ずっと無言ですけどどうかしました?」
顔を覗き込んでくる彼女に水でも掛けたいくらいに怒りが頂点に達していた。だけど私は…一応は大人、だ。
そもそも、孝太郎に選ばれなかったのは私に魅力がなかったから。
それを千佳にぶつけてもしょうがない。
「いえ、別になにもない」
意味深に口元に笑みを浮かべ、そうですかと言って自分のデスクに戻る。その様子を何も知らない夏子は横目で捉えながら「ほんっと、ああいう子苦手過ぎる。同じ部署じゃなくてよかったわ」と息を吐いた。
「私…別れたんだ。孝太郎と」
「…は?」
「振られた。ロンドン旅行中に」
「待って。何かの冗談?」
淡々と感情を出さないようにそう言った。しかし体は小刻みに震えていた。
夏子は目を見開き私を凝視していた。