籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「…」
「聞いてる?」
「あ、すみません」
「随分ボーっとしているな」
ごめんなさい、と隣の席で大量のメールを返信している土浦さんに謝罪をした。
彼は仕事が忙しすぎて髪型がスーパーサイヤ人のようになっているから下手に話しかけないようにしている。
それよりも私の脳内は和穂さんと藤沢千佳の件でぐちゃぐちゃしている。
仕事に集中しなければいけないのに、どうしても彼女が和穂さんに体を密着させている映像が脳裏に残っている。それでいて永遠にリピートされるから困ったものだ。
恋に振り回される人生なんか一度も送ってきたことはない。
孝太郎と付き合っている時でさえ、常に仕事が一番だったしそんな私を彼は支えてくれていた。
恋愛に溺れるなどありえない、そう思っていた。
それなのに新しく配属された部署で仕事を頑張らなければならない状況なのにこんなにも心が乱されている。
―彼に恋しているから、だ。
和穂さんは私を好きだと言ってくれている。それを信じているのに不安になるのは何故だろう。
やはりトラウマが大きいのかもしれない。
私を包み込む手も、黒曜石のような美しい瞳も、愛おしそうに私の名前を呼ぶ声も、全部噓偽りなどない。分かっているのに…―。
秘書課に内線で電話がかかってくる。土浦さんが忙しいから基本電話は私が取る。
役員からだったから、専務に繋ぐため和穂さんに保留したまま電話をする。
「はい、」
和穂さんの抑えた声が受話器口から聞こえる。