籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】

「佐伯です。佐藤役員からお電話が入っております。繋いでもよろしいでしょうか」
「わかった。はすみ、」

 突然下の名前を呼ばれる。業務中は絶対に下の名前を呼ばれる。
それなのにはすみと呼ぶ彼に個人的な会話をするのだと思い体を硬くする。

「今日帰宅したら話したいことがある」
「わかりました、では繋ぎます」

そのまま専務に電話を繋ぎ深い息を吐いた。話したい事がいいことなのか悪いことなのか判断がつかない。

 やはり藤沢千佳に乗り換えるという話だろうか。
いや、そんなことは…ないはずだ。
私は姿勢を正し、パソコン画面に向かった。業務中は彼のことは一切考えないようにしよう。それがいいはずだ。

―…―



 この日は秘書課全体の会議もあり、ミーティングもあり、そして慣れない業務のせいで残業を余儀なくされるのは定時の時間が迫る一時間前から既にわかっていた。


そのため私は先に残業をするための報告書に記入していた。最近はコンプライアンスが厳しく、残業前には上司の承認が必要だ。サービス残業などをしていて仮にそれがバレた場合処分されるのは上司にあたるため、厳しいのだ。

 孝太郎が来週時間を作ってほしいと言っていた件を忘れていたわけではないが、もう連絡を取るつもりのない私は彼を無視することを決めていた。
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