籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
 
 秘書課のフロアに戻ろうと専務室を出て45度向きを変えた時、孝太郎が前方から歩いてくるのが見えた。
険しい顔をした彼は私しか見えていないようで彼の脇を通り過ぎる社員が挨拶をしても返していない。
どうしよう、そう思っていると、孝太郎がはすみと私の名前を呼ぶ。


「…孝太郎」
「話があるんだ。今日この後時間が欲しい」


 私の目の前まで来ると彼は正面からそう言った。

話しがある、何度もそう言った彼の話くらいは聞いてもいいのではと思った。
何かどうしても話したいことがあるのは目を見てわかる。しかしまだ好きなんだと告白をしてきた彼の言葉は全く信用していない。それならばどうして振ったのかという疑問が残るからだ。


「じゃあ、土浦さんに言ってくるから今少し業務抜けてくる。個人的に外で会うことは出来ない」
「わかった」


 安堵した顔をしてようやく顔が綻んだ。

私は土浦さんに「すみません、15分くらい抜けます。えっと会議室…あ、隣の会議室今取るので」と一応伝えた。
土浦さんは何も言わずに頷いた。


廊下に出て待っている孝太郎に声を掛けた。やはりやや頬がこけたように思う。

藤沢千佳さんに振られたからだろうか。

隣の会議室のドアを開け入室する。比較的小さめの会議室だ。ホワイトボードに長机が3つあり、椅子が5つある。
孝太郎と正面になるように椅子に座った。ここだけ見ると、ただの会議をするようにしか見えない。
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