籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
しかしあのロンドン旅行の件以来、彼女からのメッセージは途絶えている。
「嘘、どうして。だって…藤沢千佳は私に孝太郎のことを…」
「だから、それは嘘なんだ。俺は彼女と個人的に食事に行ったこともなかった。会社でしかあったことはない」
「じゃあなんで?どうして振ったの?私、すっごくトラウマで…っ」
冷静に話し合うつもりだった。それなのに声は震え、徐々に大きくなる。
孝太郎は白い机の上に視線を落として「ごめん」と一言呟いた。
「元々はすみと付き合ってるときからはすみの親からコンタクトがあった」
「…何、それ」
「用件は一つ、別れろっていう内容だった」
「っ」
「ずっと悩んでいた。はすみの親からは圧力があったし、確かにはすみの実家のことを考えると俺じゃないのかなって。悩んでいた…」
まさか、と開いた口が塞がらない。
孝太郎の証言は嘘には思えなかった。私の両親ならば、やりかねないのだ。
「なんで…」
「ロンドン旅行の時もずっと悩んでいた。本当に…―だから藤沢千佳さんのことは本当に違うけどこれをきっかけに別れるのがいいのかと思った。でも、」
孝太郎は悔しそうに唇を歪めた。
「はすみのことが忘れられなかった。別れたら、距離を置いたら簡単に別れられるかと思っていたけど、違った。はすみが結婚するっていう噂を聞いて気持ちを伝えたかった」
「…私の両親が勝手に連絡していたんだね。本当にごめんね、でも…今孝太郎の気持ちを聞いても私は和穂さんと結婚する」
「和穂…?」
「あ、うん…常盤専務。彼が私の婚約者」
「…」
しかし彼の顔を見る限りそこまで驚いてはいないようだ。何となくわかっていたのかもしれない。