籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「変な言い方になるけど、私たちは縁がなかった。それだけだと思う」
「…俺は、っ―」
孝太郎が立ちあがる。勢いが良くてガタっとパイプ椅子が後方に倒れる。
私はビクッと肩を揺らし、目を見開く。
その時、会議室のドアが開いた。誰かが入ってきたと思い、孝太郎と同じく視線をドアに向ける。
「和穂さん?」
そこに現れたのは和穂さんだった。
和穂さんは顔色一つ変えずに会議室の中に入ってくる。
孝太郎も私も突然の出来事にあたふたしていた。和穂さんは私のもとに近づくと、
「わ、っ…」
背後から腕を回して引き寄せられる。
彼の胸にコトン、と後頭部が当たる。
「…和穂、さん…」
「告白は済んだかな?」
表情は変わらずに、だけど声は普段以上に低い。
「俺は…―」
「悪いけど、成瀬君にはすみは渡さない」
「和穂さん…」
「俺は、本当に浮気はしていない。はすみの家のことを思ったら…―」
「そんなのは言い訳だね」
和穂さんは吐き捨てるように言った。孝太郎の顔が泣きそうな表情になる。
「はすみの両親はおそらく君を試したんだ。一般人でありながら親の圧力を跳ね除けてまでも娘を幸せにする覚悟があるのかと」
「っ」
「でも成瀬君にはなかった。ロンドン旅行で振るなんてどうかしてると思うけど。俺だったら全力で彼女を守る」
「それは、あなたが恵まれた立場だから言えるんです。俺は、」
「恵まれているからなんだって言うんだ。好きな女性一人全力で守ることもできずに今更復縁を迫るのは図々しいとは思わないか。俺はたとえはすみが成瀬君に揺れ動いたとしても全力で追いかける。それほどはすみのことが好きだからだ」
「…」
孝太郎は目を大きく見開き、静止した。