籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
ほっと息をつくと、彼は今朝のことを謝罪してきた。
あれは藤沢千佳が故意なのかどうなのかは不明だが、体が接触しただけだということを弁解してくる和穂さんに何だか彼が可愛らしく感じた。
必死になるような人ではないはずなのに、私のこととなると結構必死になるのだと知ったから。
「あ、仕事に戻らないと」
「確かにそうだ。今はまだ業務時間中だ」
和穂さんと会議室を出ると、ちょうど専務室の前に藤沢千佳がウロウロしているのが見える。
総務部は残業の少ない部署であるのにも関わらず和穂さんに会いに来るためにわざわざ残っているのだとすれば本当にしたたかな女性だと感じる。
でも、と思った。
結局孝太郎は藤沢千佳に落ちてはいなかった。
そう思うとトラウマが徐々に薄れていく。あれは縁がなかったのだとようやく思えた。
「あ!先輩!」
私を見つけるとすぐに駆け寄ってくる。しかし私にはもう不安はなかった。
あれだけ真っ直ぐな和穂さんの言葉を聞いたら藤沢千佳には取られないという自信がある。
「あれ?常盤さんと一緒にどうしたんですか?」
「それは、」
ただ、彼と婚約していることはいつ公表すべきか悩んでいる。今はまだ彼女に伝えることは出来ない、そう思い何と返事をしようか悩んでいると先に口を開いたのは和穂さんだった。
「今日の夕飯の話をしていたんだよ」
「…え?」
藤沢千佳が少しだけトーンを落とした声を出す。