籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「藤沢千佳さんは頭の良い女性だと思うから分かっているとは思うけど、俺の婚約者ははすみなんだ」
「…」
「和穂さん、!」
「いいだろう、どうせ来月結婚するんだ」
「それは…―」
「先輩と、常盤さんが?どうして?」
まだ可愛らしい声と顔を保ったままだが、喋り方がどんどんぎこちなくなる。
和穂さんは普段の余裕そうな顔を見せる。
「どうして?俺がはすみに惚れてるから」
「っ」
「だから残念だけど君は…―眼中にない」
まさか職場で、しかも藤沢千佳がいる場面で再度告白に近いことを言うなど想定していなかった。
藤沢千佳は初めてぐしゃりと顔を歪め、悔しそうに下唇を噛み今にも怒鳴ってきそうなほど顔を真っ赤にしていた。
そんな彼女を私は知らない。
「あぁ、そうだ。社内で誤った情報が流れているようだからもし藤沢さんが間違った情報を聞いたら“訂正”しておいてくれないかな」
「…わかりました」
「佐伯はすみと結婚するのは俺だからね」
藤沢千佳はもう何も言わなかった。背を向け小走りで去っていくその背中は先ほどよりも小さく見えた。
和穂さんを見上げた。
「どうかな?今ので諦めてくれるといいけど」
「満点です」
「それはよかった。あと一つ言っておくけど、彼女のようなタイプは嫌いなんだ」
「え?そうなんですか」
「そうだよ」
「じゃあどういう子がタイプなんです?」
「そりゃもちろん、」
和穂さんは私の耳に唇を近づけて囁いた。
―はすみのような女性だよ
と。