籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
会社では泣くわけにはいかないのに、あんなにも涙を溢したのに、目が潤む私の顔を見て夏子は冗談ではないことを悟ったようだった。
一気に険しい表情になると前のめりになって訊く。
「どういうこと?なんで?結婚するんじゃなかったの?」
「うん、そうだった」
「プロポーズは?もしかしてされてないのをされたって勘違いしていたとか?たまに、はすみはそういう普通じゃない勘違いするから」
「してないよ。本当に…されたし、家だってそのために解約してたの」
「なんで?理由は?」
「振られた理由?それは…本人は否定してたけど浮気してたっぽい。旅行中に孝太郎のスマートフォン見えちゃって。そこに…藤沢千佳の名前で連絡が来てて」
「…嘘でしょ…じゃあ、相手って…」
「うん。総務部の藤沢千佳さん。まぁ孝太郎は否定してたんだけど」
「否定してるのに別れようって?旅行中に別れ話しようって思ってたってことだよね?ありえなくない?」
「元々…様子が変だったの。だからそのタイミングを伺っていたように見えた。すっごく悔しいけど、仕方ない」
「…はぁ、なんて男なの!ロンドンから戻ってきて一度も会ってないんだよね?一回ぶん殴りに行きなよ」
本気のトーンでそう助言する彼女に涙が引っ込んで笑ってしまった。