籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
あの件以来、藤沢千佳は大人しい。
専務室の前を通ることも無くなり、私と会社内で会うことも無くなった。
もしかしたらわざと会いに来ていたのかもしれない。
「じゃあまた今度のもう」
「もちろん」
秘書課のフロア前で夏子と別れ、仕事を開始する。
隣の席の土浦さんは今日も忙しいようで鋭い目でパソコン画面と向き合っている。
仕事も慣れてきたとはいえ、彼のお陰でスムーズに仕事が出来ていることは確かだ。
「土浦さん、よかったら今日他の秘書課の人と飲みに行きません?」
「…」
手元を一切見ないでキーボードを打つ手を止め、私を見る彼は死んだ魚のような目を向けてくる。
「飲みに?誰と?」
「えっと…秘書課の…人たちと…」
「はぁ。専務の秘書課は俺らだけだし、社長の秘書たちは今日は半分は出張。少人数になるけどいいの?」
「それは別に構わないですよ」
はぁ、と何度も盛大にため息を溢して責めるような視線に思わずそれを避けてしまいそうになる。
飲みに誘ったのはあくまでもストレス発散をしてもらおうと思っての発言だったのだけど何がダメだったのだろう。
「あのさぁ、わかってる?」
「何をですか?」
「専務って佐伯さんの夫でしょ?」
「そうですよ」
「はぁ…じゃあ他の人誘ってみなよ。二人じゃないなら行ってもいい」
「どういうことですか?土浦さんはあまり飲み会好きじゃないとか?」
「好きだよ。相手が問題なだけ」
「…?」
相手というのは私のことだろうか。疑問符を浮かべたままとりあえずは業務を開始した。