籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「いらっしゃいませ。和穂さん久しぶりですね」
「久しぶりです。今日はこちらの女性初めてなんだけどいいかな?俺の紹介ということで」
「もちろんですよ」

 40代くらいのダンディな男性がこちらへ向かってくる。
カウンター席に腰かけると和穂さんが「いつもので」と言った。
 会話内容からも彼が常連なのは本当だ。

 実はバーに来たことは一度もない。お酒は結構強い方だが、一人で家で飲むのを好むからこのような店には来たことがなかった。
ましてや会員制のバーとなると更に敷居が高い。

「何か好きな飲み物はありますか?」
「すみません、このようなバーは初めてで。えっと飲みやすい…もので」
隣に座る和穂さんに恥ずかしがりながらそう言った。ここで見栄を張ったところでこの人にはすべて見透かされているような気がするから。
「では、フルーツのカクテルはどうでしょう?女性に人気です。飲みやすいですよ」
「じゃあそれで」

 カウンター越しから注文を聞くマスターの勧めで飲みやすいカクテルを注文した。

「あの、聞いていいでしょうか?和穂さんは何をされている方なんでしょうか。名前しか知らなくて」
「そうだった、確かにはすみさんには名前しか伝えていなかった。まぁ、普通の会社員だよ。普通のね」
「…普通」

 絶対に違うとは思いながらも、深くは追及しなかった。
どうせ今日しか会わない関係なのだから。

「年齢は?」
「33、君は?」
「私は…今年25になります。このあたりの会社に勤めていて」

 薄暗い店内には私たちしか客はいないようだった。
じっと見つめてくる和穂さんにドキッとしたのは彼の顔面偏差値が高いせいだ。
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