籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「和穂さんは…ご結婚はされてないですよね?」
「していたら君をここへ連れてきていない。結婚はしていないが、するはずだった相手に逃げられたことはある」
「え?!」
 
 思わず大きな声が出て慌てて自分の口を手で塞いだ。
和穂さんほどの相手から逃げる女性がいるのだろうか。作り話ではないかと疑いたくなる。
 和穂さんはクツクツと喉を鳴らした。

「そんなに驚くことか」
「…だって、そういうふうには見えません。結婚する予定ということは私と同じですね」
「そういうことだね。でも、違う部分がある」
「違う?」
「そう。俺の相手は会ったことのない女性だ。元々見合いで決まった相手だった。顔合わせが来週にあるって言われてたのに、突然白紙になった。訳を聞いたら相手が逃げたって言うんだよ」
「…それは…えっと、大変でしたね」

 同じ境遇かと思いきや、彼の発した内容は私のとは全く違う。
会ったことのない相手と結婚する予定だったが逃げられた、と。
それは以前私が実家を出たときにした行為そのものでなんとも言えない気持ちになった。
相手の方には申し訳ないと思ったが会ったことのない人物と結婚するのが嫌で家を飛び出して数年…―。

 やはり今でも罪悪感はある。

「初めてなんだよ。逃げられるなんて」
「…へぇ…そうですよね」

 早くこの話題から離れたいが、突然全く違う話題にするのもおかしいからカクテルを飲みながら曖昧に頷いていた。
彼はやはりどこかの企業を経営しているとか名家の息子なのだと確信した。
でなければ会ったことのない相手と結婚するわけがない。
 
 彼の話しぶりでは見合いという一般的なものではなく“政略結婚”を滲ませるものだった。
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