籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
「これも何かの縁だと思えばいい。悪い話ではないはずだけど」
「メリットしかないのが怖いんです。こんなの何かないと…」
「君は賢い女性だね、嫌いじゃないよ。そういう子」
「…」

輪郭すら掴めない謎の男のことを、どうしてかもっと知りたいと思ってしまった。失恋したばかりで人が恋しいのか、いや…そんな陳腐な理由ではない。

「賢くはないです。何故なら、運命を信じてるから」
「…運命?」
「はい。根拠はないのに、いると思うんです。運命の人。昔からずっと親の敷いたレールの上を歩いてきました。友人関係ですら親の監視下にありました。そんな人生が嫌で…あることをきっかけに家を出ました。家を出てすぐにつき合ったのがこの間別れた元婚約者です。運命の人だと信じていました。結果、違ったようですが…そういうエビデンスのないものを信じてそして裏切られているので…賢くはないでしょうね」
「なるほど。はすみさんは面白いね、本当に」
「…そうでしょうか?」
「うん、そう思うよ。俺たちが出会ったのは偶然だ。でも俺は運命の恋なんかないと思ってる」
「…」
「君の話を否定してるわけじゃない。でも俺はないと思ってる。何故なら運命の相手などこの世にいないから」
「いない…?」

 和穂さんはおそらく目に見えないものやスピリチュアルな話題を好かないことは雰囲気から伝わってくる。
しかし運命の相手などいないとハッキリ言われてしまうと少しだけ傷ついた。
だって、ずっと信じていたから。
どこかに運命の相手がいる、と。
< 25 / 154 >

この作品をシェア

pagetop