籠の中の鳥は今宵も熱い寵愛を受ける【完結】
♢♢♢

 三日後には有休を消化して引っ越すことになった。
鍵は事前に和穂さんからもらっていた。引っ越し先は会社からそれなりに近いが家賃が非常に高い。
しかし約半月ほどで何とか新居を見つける予定だったから退去するのが優先で家賃は二の次だ。

 部屋に物は少ない方だったから、荷物の運び出しはすぐに終えた。
和穂さんからは事前に鍵を貰っていたが今日の引っ越しを手伝うと言ってくれていて今日は彼も仕事を休んでいるそうだ。

 タクシーで和穂さんの使用していないマンションへ向かった。
しかし、私の一時避難場所であるマンション前に到着して思わず眉を顰めた。

「…え?」

 マンションが立ち並ぶそこに明らかに雰囲気の違う高級マンションがあった。
天を突きそうなそれを呆然と見上げていると「はすみさん」と名前を呼ばれ、振り返る。

「和穂さん…このマンション…教えてもらっていた家賃であってますか?」
「君は支払わなくていい、教えた金額は嘘だよ。じゃなければ俺に頼る選択を選ばなかっただろうから」
「どういうことですか?!」
「このマンションには倉庫もある。そこに使わない家具類を置いておけばいいよ」
「…でも、」

 笑顔を崩さない彼の本心が掴めない。確かに倉庫の話をしていた記憶はある。でもおかしいのだ。普通に使っていない部屋を紹介してもらうのであれば倉庫というワードが出てくるだろか。倉庫が必要な理由は一つしかない。

「私…和穂さんと一緒に住むっていうことですか?」
「もちろん」
「ええ?!!」

 絶叫にも近い声を出し、口を半開きにして唖然としていた。混乱する脳内を必死になって落ち着かせようとするが、

「引っ越し業者来たみたいだ」
「…はい」

 車音が聞こえた。既に大きなトラックがこちらへ向かってくる。
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